ロストマン






状況はどうだい?

お前のことだ。今ごろ花畑でのんびり昼寝でもしてるのだろうか。

上手い物でもたらふく食って。右手の指先に蝶でも止まらせて。



何時の間にか、お前はいなくなってた。

俺の目の前から消えた。

お前に言わせて見れば、俺がいなくなったんだと文句をいうだろうが。

俺は死ぬつもりだった。時世まで詠んだ。あの最果ての地で、お前とともに死ぬつもりだった。

けれど、俺は生き残りお前は死んだ。

土方さんは死んで、残りは生き残った。


俺はそのことを戦が明けるまで知らなかった。重症の俺にそういった負の情報は凌雲先生が

断ち切っていたらしい。

けれど敗戦し、そして戦友の死の事実を知らされた時はそれはもう、悔しくて悔しくて。

何故俺は死ねなかったんだ、と。

大の男が散々泣いて泣いて。追い腹斬ろうとしかけた俺の横っ面をぶん殴ったのは、凌雲先生だったな。

折角助かった命を無駄に捨てるのか、と。

あの人は生命に対して俺たちとは一線違った、「命を預かる者」としての意識を持っていた。

死んで責任を取るといった、そういう考えが日本全国どこでもはびこっていたというのに、凌雲先生は違った。

そして、凌雲先生に言われたことを今でも覚えている。








その盛大な音に、辺りは一瞬にして静まり返った。

ここは野戦病院。一つの部屋に怪我人が押し込められている為、何が起こったかは

誰の目にも明らかである。

意識不明な者以外、怪我人も病人も、医科助手達も全員、こちらを見ている。

普段穏やかな箱館病院の院長、高松凌雲が、血気の盛んさでは有名な遊撃隊隊長、人見勝太郎を

殴り飛ばしたのである。

人見は吹っ飛んでベッドから落ち、落ちたときの激痛に思わずそれまで流していた涙は全部吹っ飛び

ベッドに手をかけて上身を起こし、恐る恐る様子を伺うように高松を覗いた。

高松は白衣の姿に仁王立ちになり、人見を殴った右の拳を震えるほど握り締め、きっと、人見の方を睨み返した。

「凌雲先生…?」

「人見さん、違うでしょう」

「え?」

凌雲は、ダンッと再び寝台を思い切り叩いた。

「私の実兄…古屋も砲弾を受けて虫の息です。最善を尽くしてはいますが…きっともう無理でしょう。

ですが、貴方はこんなに元気だ。確かにここに運ばれた時は重傷だった。でも、今はもう命の危険はないほど

回復している。そんな貴方に死なれたら…今まで死ぬなと尽くせる限りの手を尽くしてきた私達の想いはどうなるのですか。

私達は何も、満足する死のために治療しているわけではない。満足する生のために治療してるんだ!」

「凌雲先生…」

いいですか、と凌雲がずい、と人見に詰め寄る。

「それでも死にたいのなら結構。この私が責任持って砲弾を受けたときの状態に戻して差し上げます。

その上でどうにでもなさればいい!」


もう、何が痛いやら。

凌雲に殴られた頬の痛み、ベッドから落ちたときの痛み、それでなくても痛む傷の痛み。

仲間の死に傷ついた心の痛み。

訳もわからず、人見の目からは涙が溢れた。

「教えてください、凌雲先生。俺は…仲間を失ったこの世界で一体、何を求めて生きていけば

いいんですか?俺の手にはもう、思い出しか残っていない。思い出を糧に、一体何を!!」

凌雲は、黙ったまま、何も言わなかった。そして一言。

「失った今、それが出発点です」と言った。







あれから色々あって。某人の暗殺計画まで行って薩摩にまで乗り込んで。

そしてここ、駿河に来て。

いろいろあったさ。

なぁ、八郎。


あの俺が、今日まで何をして生きていたと思う?

教育さ。

確かに、ここ静岡に茶の事業を興したりもしたが、それより一番初めにやりたかったのは教育だ。

無くしてしまったものはもう、どうあがいたって取り戻せない。

お前が俺の前にひょっこり笑って出てくるわけでもない。

だから、俺が、死んでいった愛すべき仲間のような立派な人間を作るんだ。



そう、これが今の俺が愛した世界なんだ。

俺達は何のために戦った?己のため?それだけじゃないだろう。

一番根の元にあったものは、自分達の世界の為。それは俺達だけじゃなく、あいつらも一緒だった。

利益とか、力とか、そういう無粋な戦いじゃなくて。

いや、少なくとも俺達はこの世界の為に戦ったと思ってる。


そして今。

あの頃とは考えられない位、世の中は変ったよ。お前が見たらきっと苦笑いする場所も多い。

正しいかどうかは解らないけど、正くあることを心の底から祈ってる。

俺の仲間が礎になった世界を、壊してなるものか。

俺の仲間が愛した世界を、守って支えていく人間を育てるんだ。

俺一人の力は、この世界を支えるには少しだけ小さすぎるから。

俺はこの世界で生きていく。あの時死ななかった俺の責任をきちんと果たすさ。

そう、いつかお前に再開する時、コトの顛末と未来を全て語って聞かせてやる。




さぁ、行こうか。




俺はこれから大久保卿の薦めで俺達があの時戦ったやつらの元に出仕する。

八郎、お前はどう言うだろうか。

近藤さんと土方さんなら、苦笑いするかな。

春日には、勝手にしろと言われそうだ。

お前はどう言う?

いいさ。その答えはいつかまた聞くよ。

その時にはお前に恥じぬようにこの世界を生きてきたことを堂々と誇ってやる。

見てろよ、八郎。


見ててくれ。















BUMPの名曲から。ロストマンです。

てか、初めて書いた一人称―――!!

恥ずかしい、恥ずかしい!

もう二度と書くまいッ!すんません、すんません、人見氏!!と、人見フリークの方々(平謝り)


勝手にSPECIAL THANKS!

氷上れいさんの素敵企画(?)人見企画を力一杯参考にさせていただきました。

ちゃんと書けてないのは私が悪いんです。ハイ。

というわけで、勝手に氷上さんに捧げます。





ロストマン

作詞 藤原 基央
作曲 藤原 基央
唄 BUMP OF CHICKEN


状況はどうだい 僕は僕に尋ねる
旅の始まりを 今も 思い出せるかい

選んできた道のりの 正しさを 祈った

いろんな種類の 足音 耳にしたよ
沢山のソレが 重なって また離れて

淋しさなら 忘れるさ 繰り返す事だろう
どんなふうに夜を過ごしても 昇る日は 同じ

破り損なった 手造りの地図
辿った途中の 現在地
動かないコンパス 片手に乗せて
霞んだ目 凝らしている

君を失った この世界で 僕は何を求め続ける
迷子って 気付いていたって 気付かないフリをした

状況はどうだい 居ない君に尋ねる
僕らの距離を 声は泳ぎきれるかい

忘れたのは 温もりさ 少しずつ冷えていった
どんなふうに夜を過ごしたら 思い出せるのかなぁ

強く手を振って 君の背中に
サヨナラを 叫んだよ
そして現在地 夢の設計図
開く時は どんな顔

これが僕の望んだ世界だ そして今も歩き続ける
不器用な 旅路の果てに 正しさを祈りながら

時間は あの日から 止まったままなんだ
遠ざかって 消えた背中
あぁ ロストマン 気付いたろう
僕らが 丁寧に切り取った
その絵の 名前は 思い出

強く手を振って
あの日の背中に
サヨナラを
告げる現在地
動き出すコンパス
さぁ 行こうか
ロストマン

破り損なった 手造りの地図
シルシを付ける 現在地
ここが出発点 踏み出す足は
いつだって 始めの一歩

君を忘れたこの世界を 愛せた時は会いに行くよ

間違った 旅路の果てに

正しさを 祈りながら

再会を 祈りながら


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送